「写真版 東京大空襲の記録」(早乙女勝元)

どれだけの焦熱地獄だったのか

「写真版 東京大空襲の記録」
(早乙女勝元)新潮文庫

前回紹介した「東京が燃えた日」
著者・早乙女勝元が著した一冊です。
そのため、
本文中の実に7割が同一なのです。
むしろ内容的には
「東京が燃えた日」の方が
充実しています。
では、本書の意義は何か?
写真です。

「東京が燃えた日」は
子ども向けということも
あったのでしょう、
罹災者の遺体が写り込んだ写真は
不鮮明なものが2枚、
小さく掲載されているにすぎません。
本書は高鮮明な画像を
見開きで何十枚も載せています。
本書は写真版とあるとおり、
写真が東京大空襲の悲惨さを伝える
「記録」なのです。

目を背けたくなる写真ばかりです。
そのほとんどが黒く炭化し、
物質にしか見えません。
かつて生きていた痕跡を
まったく残していないのです。
だからこそ、
背筋が凍りつくような
怖さを覚えます。
生き物としての形跡を
微塵も留めさせないほどの熱。
どれだけの焦熱地獄だったのか。
それが10万人の人間の命を
奪ったのです。

東京大空襲とはなんだったのか?
「東京が燃えた日」と
本書を読み込むと、
軍人と非軍人をまったく区別しない
無差別大量虐殺の究極の形なのだと
理解できます。
アメリカ側の資料からは、
米軍が十分な調査研究を行い、
最も(虐殺の)効果が上がる方法を
選択していたことが
読み取れるのです。

そして、だからこそ、
その延長線上に
原子力爆弾があったということも
容易に想像できます。
たった1発で東京大空襲と同じ
「成果」を広島・長崎で
得たのでしょうから。

著者は両書で決して
アメリカ非難を行っているわけでは
ありません。
日中戦争における
日本軍の重慶爆撃にもふれ、
その蛮行を糾弾してもいるのです。

筆者の伝えたいことは「戦争の狂気」、
というよりも戦争における
「人間の狂気」なのだと考えます。
人を刃物で刺し殺すことには、
誰しもおぞましい感覚を
覚えるに違いありません。
しかし、
飛行機の上から爆弾を落として
大人数を殺傷することには、
さほど後ろめたさを
感じないのかも知れません。
だとすれば、現代のように、
司令室の中にいて
ミサイルの発射スイッチ一つ
押すだけなら、
まったく無感覚で
大量虐殺が可能に
なってしまうのではないでしょうか。

世界が、そして日本が
なにやらキナくさい臭いに
包まれつつある現代、
戦争に目を向け、
考える必要があるのだと思います。

(2018.10.19)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA